だいぶ前に勢いで書いた、小説でも詩でもないよく解らない文章です。
アスモデウスがルシファーと出会った日の話。
文中のアスモの名前の意味の下りに関してはデウスが神、
アスモに当たる部分がヘブライ語で「破壊する」とかの意味がある
と言う説もあるそうなのでそれを元ネタにしました。
なので学術的な裏付けは何もない創作みたいなものです。
アスモデウスがルシファーと出会った日の話。
文中のアスモの名前の意味の下りに関してはデウスが神、
アスモに当たる部分がヘブライ語で「破壊する」とかの意味がある
と言う説もあるそうなのでそれを元ネタにしました。
なので学術的な裏付けは何もない創作みたいなものです。
僕を見つけた日
長い、長い、ひとり。
どれくらいここにいるんだろう。
前は何処にいたのかは忘れた。
覚えてるのは、うるさいくらいに降る雨と、
白い羽根の生えた、とてもとても怖い人。
「君は、生まれて来てはいけなかったんだ」
鋭い目で僕を見て、そう呟いていた。
ずっと真っ暗だったのに、ある日、光が入ってきた。
久しぶりな気がする光はまぶしい。
僕の目を、僕そのものを、燃やしてしまいそうなくらい。
その光の射す方から誰かが来た。
背の高い、髪の長い人。
血みたいな赤い目が、僕を見下ろしている。
「ネフィリムの生き残りか。上手く隠したものだ。
グリゴリは軽薄な連中が多いと聞いたが、
お前の親は、随分とお前を愛していたのだな。」
ネフィリムって何だろう。
昔、そう呼ばれてた気はする。
僕も、僕以外の、とても大きな子たちも。
グリゴリって何だろう。
昔、僕の頭を撫でてくれた人が、そう呼ばれてた気がする。
「お前はこの先どうするつもりだ。
一度人類を一掃したこの地上は、
更にあの創造者の信徒を増やしていくだろう。
お前の様な、奴の意に反した存在が易々と生きて行ける世界ではない。
それでも生きるのか。」
難しい話だ。
何を言っているのかよくわからない。
「ああ、ネフィリムと言えどもまだ子供か…
要するに、お前はこの先どうしたいのか、と聞いているのだよ。」
どうしたい?
僕はどうしたいんだろう。
今までどうしていたかも覚えてないのに。
それに、僕は何が出来るんだろう?
何がしたいんだろう?
「まだ行く先を見つけられないのであれば、私と共に来るか。
幸福な道とは言えないが、この地上を一人で歩むよりは少しは安全だろう。
そのうち、お前が真に望む道も見つかるかもしれないぞ。」
屈んで、僕の目をまっすぐに見た。
何でか思った。この人は優しい人だと。
あの羽根が生えた怖い人みたいに、僕を嫌っていないんだって。
この人と一緒にいたら、いつかわかるのかな。
僕は誰なのか、僕はどうしたいのか。
「…あなたは、誰?」
「我が名はルシファー。
創造者に抗い、故に地の底に堕ち闇の王となった者。
お前の名は何と言う?」
ああ、一つだけ思い出した。
ずっと誰にも言わなかったから、
誰にも呼ばれなかったから、忘れてたけど。
昔、誰かが呼んでた。
僕の頭をなでてくれた人と、
僕を抱きしめてくれた人が。
「…アスモデウス。」
「破壊の神、か。それとも神を破壊する者、か?面白い名だ。
アスモデウス、私と共に来るか」
久しぶりにそう呼ばれて、僕はうなずいた。
伸ばされた白い手はとても細くて冷たいけど、あったかかった。
「ルシファー!こんなとこにいたの?!
何して…ってその子誰?」
「ネフィリムの生き残りだ。この地下洞に匿われていた。」
「うそっ、ネフィリムって生き残りいたんだ!
でもこの子小さくない?ネフィリムって巨人でしょ?」
「おそらく父親であるグリゴリの堕天使の仕業だな。
他のネフィリムのように過度な成長をさせない為、魔力で抑えたようだ。」
「へえぇ…おれよりちっちゃいネフィリムなんて初めて見たよ。」
「ネフィリムは巨人だぞ。お前より小さい者がいる訳ないだろう。」
「むきー!そんなのわかってるよーだ!」
―――――――――――――――――――
今でも僕は、雨が怖い。
愛を欲して彷徨いながら、拒絶されることを恐れている。
かつて「白い羽根の怖い人」が放った言葉に幾度となく怯え、
自分の存在を必要としてくれる対象を求め続ける。
あの頃と変わったかと言えば、多分大して変わっていない。
違うのは、今の僕には帰る場所があること。
どんなに否定されても、傷を負っても、
この場所は僕を受け入れてくれる。
ここがあるから、僕はこの弱い心を抱えたまま生きられる。
今僕がここにいるのは、あの日、あなたが来てくれたから。
あなたに連れられて向かった先で、僕は「家族」と初めて出会った。
生まれてはいけなかったと言われた僕を、愛してくれる人達がいた。
こんな僕でも生きていていいのだと、教えてくれた。
「ねえ、ルシファー様。昔、僕を見つけてくれた時、
どうして僕を連れて帰ろうと思ったんですか?
僕がネフィリムだから、利用できると思ったとか?」
「何だ、唐突に…まあ、そうだな。そんな所だ。」
「えっ、冗談だったのに…そうだったんですか?!
ちょっと酷くないですかぁ!」
「何を言うか。私は神の敵対者。諸悪の根源だぞ。
利用出来る物は利用する、当然の事だ。」
「そうですけどぉ!
もうちょっとオブラートに包んで言ってくれたっていいじゃないですかぁ!」
「何事も切っ掛けなどそんなものだ。後は時を経て結果として着いてくる。
例え当初は利用するつもりでも、長年共に過ごしていれば、
ある種の感情も生まれてくるものだろう。」
「えっ!それってそれって」
「私もリリスも、お前のことを我が子だと思っている。
そしてベルゼバブもお前を弟として可愛がっている。
誰が何を言おうが、共に過ごして来た時が、かつては無関係であった我々を結びつけた。
お前が聞きたいのはそう言うことか。」
「ううっ、パパ…じゃなかったルシファー様…
なんかちょっと言わせちゃった感あるけど、それでも嬉しいです…」
「いや、どう考えても言わせるように仕向けていただろう」
「細かいことは気にしなくていいですよぅ…
僕、やっぱりルシファー様の子になれて良かったです…ぐすっ」
「まったく、すぐ泣くところは子供の頃と何も変わらないな…
大人になったのではなかったのか。」
「大人ですよぅ…大人だって泣く時は泣くんですよぅ…」
「私は泣かないが。」
「ふえぇ…」
僕を見つけてくれたのがあなたで良かった。
あなたが僕を見つけた日、僕も「僕」を見つけたんだ。
雨の彼方に忘れてしまった過去は戻らないけれど、
あの日から始まった「僕」がいる。
今が凄く幸せだとは言えない。
辛いこともいっぱいあったし、これからもきっとそうだろう。
でもあなたが、あなた達がいるから、
僕はそれでも歩き続けられるんだ。
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